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zoom RSS きらめき高校吹奏楽部 〜もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら〜  2つのタイムリミット

<<   作成日時 : 2018/02/13 00:37   >>

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まじですみません体調崩した&忙しくて更新できませんでした。


こんばんは。
FFの曲最高すぎですね。サントラとかBLACK MAGESを聞いてしみじみそう感じてます。


妖星乱舞めちゃくちゃいいっすよね。
Wの最後の戦いとかVの決戦もすごいかっこいいと思います。


ただBLACK MAGESの妖星乱舞聞いてたら、ソロはめちゃ素晴らしいとは思わないんですけどね、おいしいことには変わりなくて、めちゃ吹きたくなるんすよねw集中できん、聞き入っちゃいますw


ああやべえ、明日早いんで寝ますw
おやすみんなー

以下本文
---------------------------------------------------------

話がある、一緒に帰ろっ。
そう言われる時は、だいたい、光は遠回りして土手の方を通って帰る。逆に直人が光に合わせて陽ノ下家を通るルートを選んでもいいのだが、光はこの、きらめき市の土手の景観が気に入っているということで、辺りが暗かろうが、こちらを通ると言い張るのだ。


以前、都子と3人で帰った時、不良に絡まれた場所でもある。あれからあのような事態は起きていないが、報復を誓い、同じ場所で待ち伏せるということもあるかもしれない。そういう意味では、もうここは通らない方が賢明だといえるが、光はこう言う。「君が一人で帰る方が心配だよ」なんて。なんとも頼もしい限りである。


その土手に着くまで光は、部活のこと、琴子のこと、年末のテレビで見た無人島サバイバルのことなんかを楽しそうに話してきた。共通の話題が多く、直人も相槌だけにとどまらずに会話を楽しめたが、ちょっと引っかかるところはあった。あー、やっぱり無いかなぁ、と。


そして、完全に遠回りになる土手に差し掛かった頃、まるで黒いカーテンが風にもてあそばれているかのような川面を一瞥しつつ、直人は、少し気になっていた話題を、持ち掛けた。


「あのさ。

 …和泉と、こないだ会ったんだよね?」
「あっ。

 う、うん。美容室に行った時、偶然一緒になってさぁ。
 一度も話したことなかったんだけど、
 不思議とお互い、顔、覚えてて」
「それで、話したんだ」
「うん。
 
 すごいね。和泉さんって。
 音楽にすっごい真剣で、勉強熱心で」
「あー。よね。

 めちゃくちゃ真面目ちゃんでしょ」
「あはは、そうかも。
 詩織ちゃんにちょっとタイプ似てるよね」
「あー、っぽいね。
 2人とも頭良いし、運動も結構できるしね。
 
 まさに優等生って感じだわ」
 

まさか和泉のことを、陽ノ下 光と笑って話すことが来るなんて。中学時代は思ってもみなかった現在に、直人は「いやぁ、読めないなあ」と、冬の語堂の話に相槌を打つようなことを考えて、人知れず唇をすぼめる。



「和泉、言ってたよ。
 光に感謝してるって」

「えっ!どうして?」
「なんか光の言葉に思うところがあった的なことを
 言ってた」
「えー、なんだろう。
 何か言ったかなぁ…」
「あらら。自覚ナシか。

 …でも、すごいよね。
 
 話したならわかると思うけど、
 あいつも吹奏楽に並々ならぬ思いを持ってる
 人だからさ。 
 
 そんな奴の心を動かせるくらい、
 光もこの1年、色々やってきたんだなって思うと、 
 ほんと成長早いなって。感心する」


…ほんと、昔は俺の方が走るの早かったんだけど。


今は鈍足の逃げ馬。ただ、自分の方がこの庭ではスタートが先だっただけのこと。そんなことを思って微笑した彼に、光は暗がりの土手の道々、首をふるふると横に振って否定した。そんなことない、と。


「いっつも君が教えてくれるからだよ。
 
 きっと私の言ったことが和泉さんの心を
 動かしたんだとしたら、
 ぜったい、君に教えてもらったことが
 私の言ったことに詰まってたからだと思う!」
「…。そうかな」


…だって、和泉さん、言ってたもん。
――やっぱり、あなたも高見君と同じことを言うのね。って…。


そう思うけれど、光の見やった幼馴染の顔は、暗くてよくは見えなくて、だがそれでも考えていることはわかる。いつも通り飄々とした顔をしつつも、自分のやっていることなんて片桐さんやみんなに比べたら大したことない、なんて言いたげな感じが、漂ってくるのだ。


そこには、光の知らない時間…中学時代に彼が過ごした日々の中、直人がどのような立場だったのかが、なんとなく示唆されているように、光には感じられる。


言い合いが絶えず、音楽が出来なければ存在価値すら無いかのように扱われる、名門の吹奏楽部。そこで彼はきっと、毎日のように揉まれていたのであろう。今のきらめき高校 吹奏楽部で、ソロやソリを任されるようなエース的立ち位置などではなく、むしろ出来の悪い後輩のように、上級生からは扱われていたこともありうる。
 

毎日のように居残り練習をギリギリまでやり、昼食も抜いて練習することすらちょくちょくあり、大会が近いというわけでもないのに自分の仕上がりの悪さにイライラしてため息が多くなったり…そういうところは、もしかすると、怒られないように、生き残るために、かつて彼が毎日していたことの後遺症なのかもしれない。


――そうだな。居ても居なくても、変わんないよな、もう。…ごめん。




この前、相沢に詰め寄られて、そうぽつりと漏らしたあの時の彼は、何か、そうした努力の数々が、結局みんなの期待に応えられなかったと、諦めと申し訳なさと悔しさをないまぜにして、謝っているように見えた。


…私の知らない、直人君。
それを、和泉さんは…すごく近くでずっと見てきたんだよね…。



吹奏楽の酷な部分、見苦しい場面、そういうものを直人は、光にあまり語りたがらない。更にそれとセットで、かつての名門で苦労した過去も、話そうとしない。


それはそうだろう。
先輩に怒られて、学校も行きたくないと思うくらいに思い詰めて、追いつめられて、同級生たちともケンカをして、喜ぶべき場所でうまくいかず、それまでの努力も実らなくて。そんな話、思い出したくなどないだろう。話したところで、格好悪い。


だが、光は、そうは思っていなかった。
たとえそうだとしても、惨めでボロボロの3年間だとしても、今、楽器を担いで一緒に帰っている幼馴染のことを、他が目に入らないくらい、格好良いと思えて、ならなかった。


「そうだよ!
 
 君が前を走ってくれるから、
 私も全速力で走れるんだから!」
「走るって、“これ”で?」
「うん!
 えへへ。なんか、小さい頃みたいだよね!」


直人が示した“これ”は、サックスの構え。無邪気に笑う幼馴染に、直人もまた、釣られて笑う。…走る、か。“あいつ”の言った通りじゃん。なんて思いながら。


「まあ…。
 小さい頃みたいに行けばいいけどね」
「えっ…?」
「…。
 ある意味、昔以上に俺、こけるかもしれないし」


…やっぱり。

部内じゃ実力者に違いない。だけど、自信満々というわけではない。できる範囲でやろうとはするけど、すごいことは出来そうもないから期待しないで。そんな風に言うわけではないが、どことなくそういう雰囲気があるのは、もしかすると、アンコンの講習後、響野に言われたことと関係しているのかもしれないが、光には知る由もないか。


だが、和泉や彼が腫物のように直視したがらない弱みや苦痛を、光は、単に暗い過去とは考えていなかった。過去に自身が述べた「価値のある失敗」。その際たるものとして、彼らが持つ財産のようにさえ、思えてならないまである。



「…ううん。それでも、小さい頃と一緒!」
「へ?」
「だってさ、君って…。

 こけて、痛くて、わんわん泣いて…。
 でも、何度だって立ち上がって、
 また走ってたじゃない」


アンコン前に見せられた、母校の様子。
和泉の語った、吹奏楽への本気の姿勢。


それらを総合すれば、もう察しはついていた。中学時代、陸上競技で全国大会に届いた自分の頑張りと比べて、県大会さえ抜けられなかった直人らの頑張りなんて大したことはないなんて、微塵も思わない。


何度こけても、もう立ち上がりたくないと思うほどに打ちのめされても、毎日毎日愚直に練習して、それでも怒られて、けれど諦めずに頑張って、それで、実らなかった。


…それなのに今、こんなに楽器と仲良しに見えるなんて。
本当にすごいよ、ほんとに…。


「…。はは、そう言われるとなぁ。

 
 すげー上手いプレイしろって言われたら、
 確かに無理だけど。


 とりあえず頑張れって言われたら。
 なんか、一応最後まで行ける気がするわ、なんか」
「ねっ、ほらぁ!」
「まあ、こないだ部活抜けだしといて何言ってんだって
 話ですけど」
「でもまた帰ってきたじゃない!
 
 ちゃんと皐月先輩みたいに、
 3年の文化祭で引退するまでぜったい一緒なんだから!」


…ごめん光。
それは、俺には多分…。


そう思うと、釣られた笑みが翳る。その表情を隠すために、直人は川面とは別の方を見て、前髪を掻き上げてから、ややあって答えた。多分嘘になる、「ああ、うん」という肯定を。


「頑張んなきゃな…。
 
 出来れば定演、“あいつ”を呼びたい」
「和泉さんを?」
「うん。それに和泉(あいつ)だけじゃない。
 ひびきのに行った友達とかも、できれば。 

 
 けど、真面目で、意識高い系のあいつのことだから。 
 半端な音じゃ、プログラムの途中で帰っちゃうだろうな」
「うーん…やっぱり、そうかなぁ」
「でも、もう夏のコンクールとは違う。
 俺が俺がーってやるんじゃなくて、
 片桐さんや光や語堂さん、他のみんなも、
 頼りにしてるとこはいっぱいある。


 なんか、こう…。
 楽しい定演に出来たら、いいなーって、思うわ」
「楽しい、かぁ。
 いいね、それ!

 頑張って忘れられない思い出にしたいね!」
「ね。せっかくみんなで、お金も集めて、
 曲目やパフォーマンスも考えて、
 1から創るんだし」


話が前向きになってきたためか、光の表情もいつも通り、見ている方も楽しくなるくらいに明るくなってきた。ただ、こんな風に楽しく談笑していると、光の胸に秘めた本題は、対照的に切り出しにくくなる。


いや、むしろこの流れに任せて、軽く話してさっさと終わらせた方が楽じゃないか、しかもそうした方が、妙に勘ぐられたりしないんじゃないか。そう思うのだが、やっぱりどうしても、横を歩いている彼に対しては、いい加減にしたくなかった。


…だって。こんなに…。

君のこと、好き、なんだもん…。


「あ、あのさ!」
「うん」


光の視界には、自分の足が殆ど意思もないままひとりでに歩いているところが見えていて、幼馴染の顔なんて、とてもじゃないけど見られなかった。なぜだかやたらと緊張している。心臓が早く鼓動して、ああ、多分自分の顔は今赤いなと、暗闇に感謝したくなって。


そのせいか、胸にまた手をやってしまった。
もうやらないと決めたのに、また、ここに無いはずのお守りを欲して。


「……」
「へ?なになに」
「え、えっと!
 その…さ。

 定期演奏会…。
 また、アンコンとかみたいに
 迷惑かけちゃうかもしれないけど、
 ぜったい、頑張るからさ、だから…」


そこで、足が止まる。
殆ど下を向いたままで、肩にかけた鞄を開けて、ぎこちない動きで中から取り出したものを両手で差し出すと、光は言う。


「これ!」


釣られて止まった直人も、2、3歩行き過ぎてから楽器ケースをかるい直しつつ、振り向く。表彰式で賞状を受け取る役目はいつもパートの誰かに任せているから殆どやったことがないからわかる、賞状を校長や連盟の偉い人から貰う生徒みたいに、目の前の幼馴染はやたらと頭を下げて、丁寧にこちらに物を渡そうとしてきている。


半分、ああ、やっぱりとも思った。
だが半分は、うわあ、もらえんのかよほんとにと、舞い上がる気持ちもあった。


それを抑えて微笑をかみ殺すと、目の前で物を差し出したままわずかばかりゆらゆらと揺れる光は、言葉の続きをやっとの思いで吐き出してくる。


「いっつも助けてくれてるし、
 これからもその、一緒に頑張りたいから、
 だから!その…」
「…はぁ。

 
 いいの?
 …こっちこそ。いつも貰ってばっかなんだけど」
  

ため息混じりに苦い顔で川面を見ながら言う彼の顔を、ようやく見る事が出来た光。そんなの、いいに決まっている。だけど、貰ってばかりというのはよくわからない。イヤホンのこと?光はそれを疑問に思い、「え…?」とぽつり、川のせせらぎに短い音符を隠して、続く彼の声を待った。


「まさかさ…。
 光と高校通えるなんて、思ってもみなかった。


 まあそれ言ったらみんなそうなんだけど…。
 光は、ほんと特に無いと思ってたから、
 マジで嬉しかった」
「……」
「変わったでしょ、俺。
 ぶっちゃけて。

 
 走んのも全然遅くなったし、
 何がダリぃとかめんどいとかすぐ言うし」


いつものように苦笑しながら自虐する彼に、予想外にストレートに「嬉しい」と言ってもらえたせいか、光はすぐに言葉を返せなかった。そんなことない!とすぐに返すこともできる。だが、それをしなかったのは、次に続く言葉を、期待していたから。


他に誰も居ない河川敷。
今日という日がバレンタインということ。
そしてこの、2人が再会できてからの話が始まったということ。


もしかしたら。
このまま、言ってもらえるかもしれない。今の光にはそういう頭があったのだ。


だが、光が見つめてやまない彼が言いたいのは、そういう話ではない。先ほど直人自身反省した、自ら渡し辛い雰囲気を作ってしまったという振り返りに対する答えこそ、彼が今、言いたいことであった。


「けど、ほんとなんていうか…。
 久々に会ったら光、マジで昔と変わんなくてさ。

 
 前向きなとこ、一生懸命なとこ、
 元気なとこ、明るいとこ…いっつも、支えられてた」
「そんな…。
 私、それしか取り柄ないから…」
「それがいいんじゃん。
 
 …さっきも言ったけど、
 どうしてもみんなを頼らなきゃいけないことって、
 こっから増えてくと思うんだよね。

 
 そん時は…光に負担かけることも、あるかもしれない」
「そんなの、望むとこだよ!
 
 言ったじゃない、私もアンコンのリベンジしたいって!」


いつの間にやら片手で拳を握って、即答してくる光。
夜でも輝きを失わない瞳がきらめくのを見て、直人は「やっぱり。変わらない」と再認識しながら、苦笑しつつ、手を伸ばす。


「…。いい?
 あげたの、後悔するかもよ」


くれ。そう言いたげに手を出してくる幼馴染は、よく見る苦笑の表情をしている。だが言っていることは意外と軽くない。


後々、あの時チョコをあげたのに、部活でひどいことを言われた。なんていうことが起きる可能性は、低くないぞと、彼はそう言っているのだ。


だが光は首を横に振って、彼の元に近寄り、今度こそ、物を手のひらの上に乗せて、言ってのけた。


「うんっ」
「なに、ちょっとは迷うフリぐらいしてよ」
「だって、絶対大丈夫だもん。えへへ」
「うわー、責任重大じゃん。簡単に言うなぁ、もう…」


ぼやきつつも、もう苦笑は微笑に変わっていた。そこで彼からようやくお礼があって、光も、ますますその名が似合う笑みを浮かべたのだった。


「ごめんね。すぐ受け取らなくて」
「ううん!
 こうして君とゆっくり話せたから、許してあげる」
「あんまなかったもんね、最近。
 あ、っつかこれ手作り?」
「えへへ、ごめん。
 時間無かったから、今年は買っちゃった」
「あっ、じゃあちょっと責任減った」
「あ、こらぁ!」


2人してまた土手を歩き出しながら、昨日までと同じ関係が結局続く。だが、実は内心、2人とも、談笑しながら同じようなことを考えていた。


…あー、とりあえず…ひとつ、言えてよかった。


…よかったぁ、渡せて…。











 
 























 


 
帰宅してから自分の机の引き出しを開けると、今日4こ目だか、1こ目だかを受け取ることが出来た。都子に「机」と言われてすぐ、教室のそれではなく自室の机だとわかったのは、付き合いの長さ故だと言わざるを得ない。


夕飯もまだ食べていないけれど、机の上に今日の戦利品を全部並べてみる。これが先輩ので、これが光。これが水無月さんので、これが都子から。伊集院は比べること自体無理としても、好雄や匠や矢部に比べれば、4ことは寂しい方かもしれない。


だが、お返しが大変なこと、今日中に食べないと明日会った際に感想とお礼が言えないこと、そして今までに比べれば十分最高記録であることを考えると、これぐらいが一番いいのかもしれない。


と思ったが、ここに来てもう1こ増えた。
残念ながらそれは、食べることができないチョコだったが。


「おっ。

 …はは」


制服から着替えながらケータイを弄って、ひとりごと。それは、部活中で返信できなかったメールを見てのことだった。


送ってきた相手は、こないだまで一緒に住んでいた留学生。頑張って作ったという手作りチョコを自分で紹介している画像と、「せめてマジでたべた気分になってください!!!!とおくからハッピーバレンタイン!!!!」と顔文字付きで文面が書かれている。


…これで5こ目、かな。


悔やまれるのが、画像を見る限りでは真剣に結構おいしそうに見える事。くりっとしたチャーミングな瞳が金の前髪の下、きらきらとしているのは、何か彼女がうまくやっていることが伝わってくるようで、嬉しさと寂しさが同時に直人の中に押し寄せてきた。


…またパットともちゃんと話したいな。
ふつうに部活じゃなくても、遊びに行ったりとかしたかったよ。



空港での最後の会話のせいもあってか、ここにパトリシア・マクグラスがまだ住んでいたなら、このようなチョコをくれただろうなという確信が、直人の中にある。しかしそれは、部の他の女の子にも似たような感触があったのだが、結局そうした女の子たちはチョコどころか、今日1日話すらできなかった人も居るほど、軽くアテが外れてしまった。


…今年が最後になるかもしれないんだけど。
まあ、自業自得か。



一度、色とりどりのプレゼントたちとはお別れし、部屋から出て夕飯なり入浴なりを済ます。途中で父が帰ってきてすれ違った際、「何個?」なんて聞いてきたので、食べることのできないそれも含めて「5」と直人は答えたが、それに父は「勝った」と飄々とした風に言って、さっさと部屋の方へ消えていった。



…なんだよ、負けてばっかだな。
まあ、別に悔しくはないけど。



全部義理だとしても、相当可愛い女の子たちからもらったのだから、なんというか、勝負に勝って試合に負けたとでも言いたい気分だった。


それから、宿題に手をつけるべく22時ごろに、プレゼントたちの横にノートを広げたのだが、その際に気付いた。ケータイに通知が来ていることに。


「直人君」
「さっきの話なんだけど」


そこで途切れていたスマホのトーク画面に、既読の通知と返信を同時に行い、カーテンの向こう側の人に連絡する。


「ごめん、寝てた」
「てか何の話だったの?」


返事をしてから、椅子を引いて机に着いて、まずは水無月さんのから貰おうか、と教科書より先にそちらへ手を伸ばしたところ…。


「♪ あーやーふーやー みたい
    ともだちの ままなんて だめっ ♪」


急に来た電話の着信音に驚きながら、画面に表示された名前に心臓が2度跳ねる。まあ、やりとりをしていた相手なのだから、かかってきてもおかしくはないのだが、それにしては返信してから電話がくるまで、非常に速かった。


…待ってたのかな。
いや、そういう奴じゃないよな、たまたまよ、たまたま…。


通話をタップし、ゆっくり耳に当てる。


「はい、もっしー」
[もしもし。
 ごめんなさい、今、大丈夫だった…?]
「うん、まあ。

 っつかいきなり電話になるからビビったんだけど」
[ごめんなさい。
 トークだとちょっと長文になりそうだったから…] 
「あ、そう…。
 そんなマジ話なんだ」
[うん…]


きっとカーテンの向こうのあの子は、浮かない顔をしているだろう。それは想像に難くない声色だった。


ただ、それは自分も同じことが言えた。
こないだから続けてとってしまった、自分の横暴な態度。それをこの電話の内に謝れれば、という思いが、もう喉元までせりあがっているのだから。


カーテンの方に視線を少し送りながら、チョコの方へ伸ばした手は引っ込めて、直人は続きを伺った。


「で。なんでしょう、か」


謝りたい思いがある。なのにこんなつっけんどんな態度を取ってしまうのは、なぜだろうか。引け目があるのだろうか。勉強でも運動でも部活でも、もはや何一つ勝てはしない、幼馴染の彼女に対して。


[あの…。

 この前から、話してたことなんだけど…]
「俺が部長的なことしたらいいとか、
 そういう話?」
[う、うん…。

 あの時は、ごめんなさい。
 あなたの気持ちも考えずに、突然あんなことを言って]
「…。いや、そりゃ、むしろ俺が謝んなきゃ
 いけないけど…」
[えっ…?]
「いや、その。言い方、ひどかったなって」


非常にぶっきらぼうな謝り方だ。だが、これでも言いにくいのを、なんとかひねり出した方。
 
 
[ううん…。

 
 あのね、直人君。
 怒らないで聞いてほしいんだけど…] 
「ああ、うん…」
[星川さんが、ああ言っていたけれど…]
「俺が人前に立つあれじゃない的なこと?」
[ええ…。
 
 でも、私は違うと思うの]


こういうことを言われると、先ほど感じたような引け目もあってか、怒るなと言われても反論したくなる。はいそうですねと流せなくて、直人は思わず、「いやいやいや」と口癖の後に、続けてしまう。


「何の根拠があって言ってんの。
 どう考えても俺なんかよりそっちんが
 スペック高ぇじゃん。


 張り出されてる点数、あんまり下に居るもんだから
 見たことないかもしれないけど――」
[違うわ、テストの点数の問題じゃないの。
 それに直人君、そんなに下の方っていう
 わけでもないじゃない。


 都子ちゃんと同じくらいでしょう?]
「こないだは3点負けたけど」


ほら、と念を押す詩織が彼の点数を知っているのは、おそらく都子とでも話すのだろう。都子の点数が基準に出てくるのは、その証拠だ。


[直人君。
 私があなたに前へ出てほしいって思ったのは…。


 どの音域も経験していて、
 出来ない時の苦しさも、出来た時の喜びも、
 どちらも知っている人だと思ったからなの]
「それなら色んな人の気持ちを
 わかってやれるだろう、って?」
[ええ。
 私が低音の人に支えが足りないって思っても、
 具体的にどうしたらいいかなんて、的確に指示できないもの。
 
 
 けど、あなたなら…]
「そんなもん自分もできないのに
 俺だって言えないって」
[だとしたら、一緒に悩んでいけるじゃない]
「…。 
 そう言われても、今更やっぱやりますなんて、
 言う気ないよ」


クラスでいつも穏やかに話す詩織の語気がいつもより強く感じられて、逃げるようにそう述べた直人。どんな説得にも応じる気はない、そう言いたげに、今にも「それじゃ」と電話を切りそうな雰囲気が、受話器越しに藤崎家に届いたろう。


しかし詩織は、説得をするために話を持ち掛けたのではない。彼女もまた、都子たちと同じように、昔から彼を見てきた立場にある。だから、わかっていた。


[うん、わかってる。
 私ももう、あなたに無理なお願いはしないわ。

 
 でもね、直人君。
 これだけは言わせてくれないかな…?]
「…。何…?」
[あんまり、自分を卑下しちゃダメよ…。

 
 オーディションの時も、さっきの話でも…。
 俺にはできない、俺じゃ勝てない、
 俺なんていなくていい…そう言うけど…]
「いやいや、待って、片桐さんより俺んが
 上手いわけねーっしょ」
[でも、全校集会の時のあなたなら、
 あんなこと言わなかった。


 6月の時点のあなたじゃ、 
 あんなソリはできなかったかもしれない…。


 でも、片桐さんと合わせて、毎日練習して、
 あんなに素晴らしい演奏を作り上げたじゃない]
「…いや、それは……。

 片桐さんがいたから…」


謙遜ではない。本当にそう思っていることは、詩織にもよくわかっている。彼女も長年吹奏楽部をしてきたのだから、八重が考えていたようなことを、思うのだ。一部の人を除いて、代わりはいくらでもいるし、高見 直人も、その「一部」には含まれないだろう、と。

だが。


[それは、片桐さんと1か月本気で頑張れば、
 誰でも、ある程度の域まではたどり着けるかもしれない。


 でも、他の誰かなんて関係ないわ、
 片桐さんの横で吹いたのは、まぎれもなく
 あなただったじゃない]
「……」
[頑張れば成長できる…。
 そして私たち吹奏楽部は、それを音で証明できる。

 
 吹奏楽部がそういう場だということを、
 あなたや片桐さんが見せてくれたから、
 初心者のみんなもここまで着いてこれたし、
 私も…ううん、私たちも、嬉しかったと思う。

 
 頑張ったことは、決して無駄にならないって、
 証明してくれたから]



それは、直人自身も、自分に証明したいことだったはずだ。吹奏楽コンクールで大人の都合に合わなければ、自分たちの努力など何の意味もない。そんな現実に直面して、うんざりして、絶望して。


中学生の時、邁進していたあの日々は無駄だったのか。何のために頑張っていたやら、もはやわけがわからない。努力しても、公平にその成果を発揮する場など、ありはしないのではないか。ずるく賢く立ち回って結果的に勝つような人に、がむしゃらな人たちはかなわないのだろうか。


そんな諦めに、一矢報いたのが全校集会だった。
内容としては合唱部の方が完成度は上だったにも関わらず、人の心を動かしたのは、無茶をしてでも音を聞きにもらいに行った、2人のソリスト擁する吹奏楽部だった。


誠意、ひたむきさ、熱意。
吹奏楽部側にあって合唱部に無かったものは、それらぐらいに違いない。それが勝因になったことが、詩織にも、そして直人や美樹原にも、ひとつ救いになったことは確かだった。


[今はまた辛いけど…
 きっと、この定期演奏会も、 
 私も、直人君も、みんなも、成長できる場になると思う。

 
 4月には私たち、今じゃ想像もできない演奏が
 出来るようになっているはずよ]
「…。まあ、その舞台があるかは、
 俺たち次第なんだけど…」
[うん、そうよね。
 でも、最初からできないって決めつけていたら、
 始めの一歩も踏み出せないわよ]
「また。厳しいこと言うね…」
[ううん、きっと直人君も、頑張れるって
 信じてる。だって、あの中学校で…ううん、
 小さい頃からずっと、一緒に頑張ってきたんだもの]


…詩織までそういうこと言うのか。


返す言葉、返す言葉、どれもネガティブなものになっている彼が、ふとため息をついて机から立ち上がる。落ち着かないのだ。むずがゆくて、情けなくて、けれど少しうれしくて。そしてその嬉しさが、もう無理だと思っている相手に対してだからこそ、一層自分が情けない。


[ねえ、直人君…。

 もしかして、ひびきの高校で…。
 爆裂山先生や、向こうの人に、何か言われたの?

 
 こないだからずっと、何か、あったんじゃないかって…]
「…。
 
 いや。何もないよ。
 爆裂山先生だって協力してくれることになったじゃん。
 なんかあったら上手くいってないって」
[…本当?]


…小さい頃からの仲を強調しといて、こんなこと訊いてくるなんて。やっぱ詩織は頭良いんだな…。


ひねくれたことを少し考えながらも、直人は、少し忘れかけていた嫌なやりとりを思い出して、表情を苦くした。あの約束は、例え相手が詩織だろうと都子だろうと、話すことはできない。彼女らが親密なら親密であるほど、心配をかけないためにも、逆に言えなくなる。皮肉なものだ。


「マジだって。
 何もないよ」
[なら、いいんだけど…。

 …直人君、オーディション、頑張ってね。
 あなたなら、片桐さんにだって負けない演奏が
 できるかもしれないわ]
「いや。それは流石に無いわ」
[ほら。だめよ、限界を決めたら。
 せっかくいい目標があるんだもの、
 成長のきっかけだと思って頑張れば…]
「…限界?を、決める?」


ふとフラッシュバックする、教室での会話。


――……もっと言うなら自分の限界を、決め付けてる。そういう音、してる。



…なんか、似たようなこと言うな。
華澄先生の言ってたようなオカルトなことみたいに考えれば…俺の心がけ次第で何か変わるっつー話だったりすんのか…?


…あれからアンコンの練習の時でも、言われたことは意識してた。コア全部を使って唄うとかどうとか…。


本番の演奏、響野さんに聞いてもらって、感想聞けば…また何かわかるかな…。



「…まあ、あれ」
[うん…?]
「いつも通りやるだけのことっすよ。
 
 勝つ、負けるは結果論。
 とりあえず今考えてる演奏予定をきっちり
 仕上げて望む。もう時間も無いし」
[…うん。頑張ってね]
「まあ、あれでいいよ。
 チョコは、俺が勝ったらで」


冗談でそう言ってみる。ここで触れておかないと、ちょっとギスギスするかななんて思ったからだ。だがこれには、意外な反応が返ってきた。


[あ、あの…。

 どうしよう]
「え?どうしようって、何が」
[あなたの分、本当は用意していたの。
 でも、家もお隣だし、また噂になったら
 困ると思ったから…]
「え!なんなんそれ!」
[ごめんなさい、えっと…どうしよう…。
 
 もうこの時間だし、外に出られないし…]
「…。

 あー、じゃあ、マジで。
 勝ったらちょうだい。オーディション」
[えっ、でも…。
 それじゃあバレンタインにならないし…]
「いいじゃん。
 俺もそれでモチベ上がるし。


 けどあれ、負けたらマジで自分で食べてね」
[ええっ、そんな…。
 そんなのだめよ]
「いいじゃん、なんかウケるし。
 自分で買ったんでしょ?それ」
[え、ええ…]



流されるように決まってしまったチョコの行方。

大人に聞かれたら、これだからゆとり世代はとか言われて、飲みに誘われても断る新人とかと同じくくりで異常だ何だと言われそうな言動だが、詩織には、直人が敢えて受け取らないようにしているのだろうと思えて、仕方なかった。


小さい頃、渡せなかったあのプレゼントと同じ。
あれから、彼の言う張り出されたテストの点数のように、2人の距離は開き、近くに居ながらも、昔のように遊んだり、家族ぐるみの付き合いをしたりすることは、なくなった。


…きらめき高校に入ってからは、もしかしたら。


そう思う瞬間が、詩織には幾らかあった。
だが最近はまた、あのプレゼントと同じように突っぱねられて、「もう昔のようにはいかない」とでもいうかのように、背を向けられてきた。


…今からでも間に合う。
光ちゃんも戻ってきて、また2人、仲の良い幼馴染に戻れる。


だがそれにもタイムリミットがある。
いずれはあのテストの点が示すように、大学も違い、職場も違い、帰る家もお隣同士とはいかなくなる。


…本当に手遅れになってしまうかもしれない。
だから…。


それに気付いてほしい。
そう思うからこそ、電話を切った後、カーテンを開けて、向こうの窓を覆う閉ざされたカーテンの向こうに思いを馳せ、詩織は思った。



…お願い、頑張って。




多分、つづく








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