For side

アクセスカウンタ

zoom RSS きらめき高校吹奏楽部 〜もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら〜  おかわりは、みんなで 

<<   作成日時 : 2018/04/16 00:54  

トラックバック 0 / コメント 0

黒船来航


前の記事で愚痴みたいなことも少し書いてしまったけど、なんか昨日、めっちゃアクセスカウンターが回ってた。1日50あるかないかが平均PVのこのブログだが、なんか昨日は驚異的で、1100以上のPVが1日に計測された。この1100という数字は、以前のRUNEUを書く前のこのブログなら、1か月分くらいに相当するので、正直驚いた。


しかし蓋を開けてみると、よくわからないことにその内の1060ほどはすべて海外、ワシントンとかその辺のユーザーさん(?)がご来訪されたというデータになっていた。1記事辺り平均閲覧時間は15秒。彼(?)は深夜の1時から2時ぐらいの間になぜかきら高の全記事をものすごい速度でクリックし、そしてまったく読まずに去っていたのだw


なんなんやろうねあれ。
サーバー重くしたろ!的なサイバー攻撃だったんだろうか。わけがわからないwそれこそグーグルボットだったのだろうか。しかし不本意ながらこれからも未来永劫破らえない記録がウチのブログ史に樹立したのは確か。空しいけどw


そして今年のGWは連休が貰えることになった。
宣言通り、きら高を進めるのに良い暇になることだろう。それもいいけどFFRK楽しいクラーケン限凸しよ

以下本文
---------------------------------------------



「直人君!」
「どうする?みんなで一緒に帰ろうって話してたんだけど」


帰り際、光や都子に声をかけられたサックス吹きだったが、彼は首を横に振った。声をかけてきた女の子たちの中には学園のマドンナさえ居て、確かに詩織も聞きしに勝る可憐さというか美貌というかといったところだが、残る2人の幼馴染も、十分この高校の男子にとってはチャンスがあるなら狙わない手はない相手といっていい。


けれど贅沢なことに高見 直人は、少し渋い顔をして、この下校イベントを棒に振った。


「ごめん。ちょっと寄るとこあるから」
「そう。それじゃあま…」
「――寄るとこって、もしかしてこれから広告・協賛金集め?」


都子が未練がましくならないようにさっと話を切ろうとしたが、それを遮って光が尋ねる。しかしこれにも直人は首を横に振った。


「いやいや。こんな時間からこいつも重たいのに
 そんなことしないって。

 ちょっと人と会う約束があって。
 あとついでに橘さんの見舞いにも行こうかなーつって」
「そっかぁ…。
 
 暗くなるのも早いし、気を付けてね!」
「うん、サンキュ。
  
 じゃあ」


まだ施錠前の音楽室前、部活やそれ以外の話で喧噪の体を成す、よくある高校の風景。そこから楽器ケースを担いだ男子が去っていくのを見届けてから、学園のマドンナがぽつりと言う。


「私が居るからかな…」
「えっ?
 いや、別にそういうわけじゃないわよ、きっと」
「…どうしたの?詩織ちゃん、何かあったの?」
「う、ううん、そういうわ――」
「――ちょっとー?聞こえてますけど?」


声に、はっとして、うつむき加減だった背をまっすぐにし、冷や水をかけられたみたいに驚いた顔が持ち上がる。学年でも成績トップクラスの女の子の目に映ったのは、学年でも平々凡々な点数しか取れない隣の家のご長男。


階段からわざわざ戻ってきた彼は、いぶかしんだ顔をすると、ぎくりとした幼馴染3人に言ってのける。


「そんなスネんなよ。

 明日から毎日一緒に帰ってあげるから」
「えっ…。そ、それは…」
「うわぁ、出たぁ、チャラと君!」
「な、なにそのチャラと君って!
 やだやだ俺そのあだ名!?」
「いいんじゃない?
 もう高見 チャラとで」
「えー、それ漢字で書いたら
 チャラ人みたいなマジでチャラい奴じゃん!」
「ふふ…くすくす」


…なんだよ。やっと笑った。


おかしそうに手を口許にやって笑う長髪の少女を横目に、わあわあ騒いでいた直人は、息を漏らしてそう思う。べつにそんな、誰かが居るから帰らなかったとか、そういうことではない。人に会う約束があるなんて、嘘をついたのは事実だが。


「…まあ、じゃあ。

 今度またご一緒させてよ」
「うん!ばいばい!」
「さよなら」


今度こそ軽く手を上げて去っていくソプラニストでありテノールでもある彼。見送った彼女らは、今度こそ階段を下る音を雑踏の中で聞いてから、噂し合った。


「うわぁ、やっぱり耳いいね!」
「ね、ほんとうさぎさんみたいな地獄耳よね」
「そういえばかくれんぼの時とかも、直人君、
 すごく耳がよかったわよね」
「そうよ!ちょっとでも物音立てたら 
 見つかっちゃうのよね」


共通の思い出話に花を咲かせるご近所さん方と元ご近所さん。そんなことを話していると、生徒会の書記さんが施錠を完了し、「かいさーん!」と号令が上がって、みんなが歩き出した。


それに続いて足を踏み出しながら、詩織は思い出す。
そういえば小さい頃は、あんなこともあったなぁ、と。


「――なおとくん、パー出してね。
 約束だよ」
「パー?わかった!」


グーとパーのどちらを出したかでドロ(泥棒)かケイ(警察)かに分かれるチーム分け。これが始まる前に、自分はさっき帰ったあの子に耳打ちしたものだ。そうしたら、


「なおとくん!グー出して!おねがい!」


今度はひかりちゃんが耳打ちじゃなくて堂々とそんなことを言うから、周りの子も「おっ、たかみくんもひかりちゃんもグーか!」なんて目でどうしようか迷ったりしていた。


「えっ、グー?えっ、まってまって。
 おれさー、ちょっと詩織と…」
「――しゃあ!いくぜ!
 ぐー、とー、ぱーで、わっかれっましょ!」


光に説明しようとしていた途中で始まるものだから、詩織ちゃんはパーを、光ちゃんはグーを出したけど、直人くんは、頭がこんがらがってしまって、グーもパーも両方出してしまった。


「あ。やべ、ミスった」
「おいーっ!なんでりょうほう出してんの!」
「ちゃんとやってよー!」
「せっかく詩織ちゃんと組めたのにさー!」
「――いやいや、いいじゃん!
 
 おれひとりでケーサツやる!ぜーいん捕まえてやらぁ!
 その代わり捕まったら俺の仲間ルールね!」
「「えー!!」」


結局、足が速かった直人くんは、なんだかんだ「仲間ルール」もあって、全員をジャングルジムの下に終結させることに成功したのであるが、今、楽器を言い訳にまったく走らなくなったのも、あの頃満足するまで全力疾走したからなのかもしれないなと思うと、詩織には何だかおかしく思えて仕方が無かった。


…あの頃と変わってない…。
直人君は、直人君のまま、よね?きっとこれからも、お隣の家で、一緒の学校で一緒の部活で…みんなと、頑張っていける、よね…?


わからない。なぜか胸騒ぎがする。それは、どれだけベストを尽くそうとも、抗えない挫折があるということを、心に深く刻まれたままだから、なのか。


…渡井さんに言われたように、私も。
頑張らなきゃ。


確かに自分たちは、これまで生きてきた中でも最も大きな挫折を、中3のあの日に経験した。ならば、だからこそ。油断せず、最後まで失敗する可能性の芽を摘みにいくという確固たる決意を、持つことができるのではないか。教訓を活かして定期演奏会をやり果せたなら、きっと。自分たちは前に進める。


…そうだよね、メグ。


自分だけでなく、悪夢にうなされる親友をも心中で励まして、詩織は、ようやく微笑を取り戻し、友人との会話に溶け込んでいったのだった。


















「……。


 …あー、クソッ…」


きらめき市の町を歩きながら、イラついた様子で電話を耳から離した彼は、つい口に出してしまった言葉をため息で濁して、表情を曇らせた。


…神条さん、何か隠してると思ってたけど、やっぱ結構重たい事情があんのかな…。



今日などはアゴに絆創膏を貼っていたが、いくら野犬に餌をやるとはいえ、そんなところをケガするだろうか。もしかするともう、十一夜が懸念していたような悲しい結末は、もうすぐそこまで足音を立ててやってきているのかもしれない。


…最近、学校もちょくちょく休んでるもんな…。
最悪、退学なんてことも…。


このまま連絡がつかなかったらどうする。自分から何か働きかけようにも、コンタクトが一切取れなければ、一切の言葉もかけられないし、事情も全く訊くことができない。


…それもあるから、ついでみたいになって悪いけど…。


光に言った「人に会う予定」は、見事に崩れた。
だから次は、病院に行って、新しく配られた楽譜を橘の元へ持って行かなくてはならない。


しかし直人には、橘に対して別の用件もあった。今まであまり話してこなかったことだが、今となっては一縷の望みをかけるのに十分なネタである。


病院にたどり着いて、病室のドアをノックして断りを得て、面会を果たした相手に、直人はまず、容態を尋ねた。


「すみません、
 部活が終わったばかりのところへ来てもらって…」
「いやいや。
 
 てか、どう?だいじょぶ?具合…」
「まだ自由には歩けませんが…
 今週からリハビリも始めているんです。

 もしかしたらこの分だと、
 移動は杖を突きながら、になりそうですが、
 演奏会までに復帰できるかもしれません」
「ほんと?
 やったじゃん、じゃあ次は、そのもしかしたらを、
 イケるに変えてかないとね」
「はい、その通りですね」


ベッドに着いていても、優しさの中にも凛とした意思の力の宿る目が、楽器ケースを肩にかけた少年の瞳を見据えて頷く。が、直人の視界では、上半身を起こして横たわる橘の、健全な方の足が布団の中でもぞもぞと動くのが見えていた。


焦燥からだろうか。
それとも、特に理由はないのだろうか。思わず目を泳がせた直人は、そのまま自らのかばんに手をやって、楽譜を取り出し、彼女に渡した。


「ありがとうございます」
「…こっちも、ちょっとずつだけど風向き、
 良くなってきてると思う。

 
 だから焦んないで帰って来てよ。
 演奏会には間に合わなくても、帰ってこれる場所、
 みんなでちゃんと守るから」
「はい…。

 ゆかりさんも、他のみなさんもよく顔を出してくださって。
 皆さん、一様にそうおっしゃってくれるんです。


 だから私も、今は我慢することが
 前に向かうことだと信じて、治療に専念しようと思います」
「さすが師匠」
 

柔和で端正な顔立ちに似合わず、各種武道の嗜みもある橘をそう茶化すと、束の間、笑いの花が咲く。が、直人が訊こうとしていたことを口にすると、その白椿のようなつつましくも綺麗な笑顔は、夜の帳に合わせて花弁をしぼませてしまった。


「…あ、あのさ。
 ちょっと、訊いてもいい?

 橘さんってさ。
 神条さんと、仲良かった、よね?」
「あっ…。

 はい…芹華とは、中学からの付き合いなんです」


今までも、神条の口から「はっ、恵美に訊かれたらどやされそうだ」などと名前を聞いたりしたし、逆もあった。だが、肝心の2人が話しているところは、部活中でもあまり目撃されたことはない。


ファーストネームで呼び合うほどの仲なのに、光や水無月のように仲良く話しているところを見かけないのは、どうも腑に落ちない話だ。それに、今も神条の名前を出すと、橘の表情は目に見えて青ざめた。直人には何か、今病床に伏す彼女が、神条の根底にある何かを知っているのではないかと、思えてならなかった。


「えー、初耳」
「そうでしたか。 
 あの、芹華は、元気にしていますか?」
「…。
 
 ああ、いや…」


今度は直人の方が、ペースを狂わされた。隠すべきか、正直に言うべきか。いや…の後に少し間を取って考えた彼は、やがて判断を口にした。


「…。
 時々学校を休むし、体調とか良くないのかも」
「…やっぱり、そうですか……」
「やっぱりって…。
 橘さん、なんか知ってんの…?

 …あっ、ごめん、こういうの、
 聞かない方がいい?」
「いえ、そんなことは…」


この少女は、日々いつもにこにこしていて、あまりだるさや疲れを表情に出さない。しかし、中学からの付き合いだという友人の名前が出てから、明らかに真顔になったし、目線も合わなくなった。


それを、長年女子だらけの部活で過ごしてきた、数少ない吹奏楽部男子は、看破していた。だからこそ、真実を前にして、がっつかない姿勢を見せたのだが、思い悩む部分も少なからずあった。このまま連絡も取れず、学校にも二度と登校してこなかったら…そうなったら、神条の事で自分も十一夜も、後悔してもしきれない思いを抱えることになるだろう。


…ごめんけど、橘さん…。
訊かなきゃいけないよな、やっぱ…。


思い直し、苦い表情と共に「あの」と口走りかけた矢先、ほんの32分音符ほどの差で、


「あの」


橘の合わなかった視線を持ち上がったと思うと同時に、先手を打たれた。上塗りされた「あの」に続く言葉は、こうだった。


「高見さんは、あれから…。

 喧嘩をすることが、ありましたか…?」
「え。

 いや、ないけど。
 っつか橘さん、俺、そんなガチのヤンキーじゃないって」
「そ、そうですか…。
 それなら、良いのですが…」


正当防衛のケンカなら、世にも珍しい「象」だけが客として聞いてくれた舞台に立った日、あったことにはあった。だがあれは、一般的な目線で言えば、護身のための致し方ないものだったとみていいはずだ。もっとも、魔法の指輪で空間接続なんて荒業さえ行ったあの戦いを、一般的なくくりで捉えられるのかというと、なんとも度し難い話だが。


目の前にいる、清楚で育ちも品も良い大和撫子とは、縁も所縁もなさそうな、超戦士だの魔法使いだの、わけのわからない世界。そんな死地(?)に想いを一瞬馳せたせいか、冗談の後の苦笑が、訪れた沈黙の上に少し尾を引く。


今度こそ、先ほど言えなかった「あの」を続ける時。
しかしまたしても、直人のそれは言えず、病室の重い空気を震わせたのは、床に伏しても気丈なままの声。


「…高見さん。 

 お気を、悪くしないでほしいんですが…」
「…へ?」
「前にも訊きましたが、高見さんは、以前に…。
 格闘技か何かをなさっていたんじゃないでしょうか」
「え、いやいやいや。
 全然そんなの経験無いし、だいたい…」
「――でしたら、やっぱり、その。
 
 他の男の子たちと、喧嘩に明け暮れたような
 時期が、あったのではないかと…」


ぴくり。片頬が持ち上がって、それからすーっとカーテンが閉まるみたいに真顔になっていく少年。明け暮れたというほどではない。だが心当たりが無いわけではない。いつもの妖精さんに図星をあてられた時のように、日ごろ飄々とはしているが、彼はやや顔に出やすいタイプのようだ。
 

おずおずと様子をうかがう橘にも、それは見て取れていた。
文化部で繊細な業をいくつも使いこなす彼が、いつどこで荒んだ生活をしていたのかは、橘には知る由もない。しかし、本物の格闘技を体得している彼女には、事実がはっきり見えているようである。


「……。

 なんで、そう思うの?」
「…以前、この町の総番長さんと喧嘩をなさっていたのを、
 見て思ったんです。

 
 ただ感情の赴くままに拳をふるう人は、足が止まります。
 相対した時、一歩下がれば、タイミングを合わせることも、
 側背を突くことも、容易いでしょう。


 ですが、高見さんの体捌きは、剣を振りながら足が殆ど
 止まっていませんでした。
 逃げ足も追い足も、喧嘩そのものは野蛮な行為かもしれませんが、
 非常に綺麗だったのが、今でも思い出せます…」
「えっ、綺麗って…」
「前後の動きだけにとどまらず、左右への逃げ道は
 常に用意し、揺さぶりと防御の両面が確保されている上、
 一定のリズムが常に駆け引きを生んでいました。


 総番長さんも、それを感じ取っていたからこそ、
 距離を詰めて大きな身体を押し付けることで、 
 高見さんの足を止めることに終始したのでしょう」


戦い方が綺麗だなどと評されたのは、直人自身、初めてのこと。いや、不良たちにはおぼろげながら、華麗だの魔法だのと誉めてもらったことはある。だが、ここまで評論されたのは、紛れもなく初めてだ。


そのせいか、心なしか嬉しさもあって、妙な気分に胸が浮ついた。…いや、女の子にこんなこと誉めてもらうなんて、良いことなもんか。もっと他のことでいいとこ見せなきゃ、匠や矢部に聞かれたら、鼻で笑われるっつの。


「…さっすが。

 やっぱガチでやってる人はわかるんだ」
「では、やはり…。
 何か格闘技のご経験が?」
「いや。経験は、無い。
 確かにちょっと喧嘩した時期はちょいちょいあった。


 でもそんなの男子なら誰でもあると思う」
「けれど、高見さんの業は、
 そんな域ではありませんでした」
「それは…多分、教わったからだと思う。

 あれ。
 普通に考えてさ、あんな剣法っつーのかな、
 ああいう格闘技って、多分ないっしょ?」
「近いものは少々見聞きしたことがありますが、
 幾つかの武術が組み合わさったものなのでしょうか」
「どうかな。詳しくはわかんないけど…。
 
 あの総番長とやりあう前、なんかよくわかんない人に
 部活が終わった後、毎日トレーニング付き合ってもらってさ。

 で、なんかできるようになった。
 だから場数踏んだとか、そういうんじゃないよ、俺のは」


あの経緯は多少複雑で、ここで病人を気遣って短く説明するのは大変難しい。そのためだいぶ端折って、あの格闘技のルーツを話した直人だったが、あまりに情報が少ないせいか、直人の口調が冗談めいた軽い感じなせいか、橘はあまり納得してないようで、「そうですか…」と唇を少し噛んで下を向いてしまった。


もしかしたら、どこかでタクシードライバーなりレジチェッカーなり、変幻自在にきらめき市を動かしているOBの先輩も、


「ぶわっくしょん!
 
 …あー、さぶいさぶい。
 エアコン壊れてんじゃないの?」
「九段下さん、風邪ですか?」
「あっ、いやいや。へーきへーき。
 おっ、あっ、いかんいかん、お客様。

 …いらっしゃいませ!
 何名様でしょうか!」
 

なんて、あの窓の向こうに見えるどこか、くしゃみをしているかもしれない。だがそれとは別のことを考えて黙した直人は、ややあって、腑に落ちない様子の橘に向かってこう告げた。


「あっ、っつか、ごめん。
 長話して」
「いえ、いいんです。
 私がこの話題を出したのですから」
「うん…。
 
 …そろそろ、帰るよ。
 宿題やんなきゃ」
「はい。ありがとうございました。
 来ていただいて、嬉しかったです」
「いえいえ。
 こんなチャラ男でよけりゃあ、いつでもぜひ」
「私は、みなさんが言うほど高見さんが
 ちゃらちゃらしているとは、思いませんよ」
「はは…でもみなさん言ってるわけっすか」


束の間笑いあって、それからやがて、扉に手をかけるサックス吹き。しかし自分は、まだ肝心なことを彼女に聞けていない。


神条 芹華のことだ。
しかし一度訊いたにも関わらず答えてくれなかったということは、言いたくないことなのだろうか。考えてみれば、一度女子が取り下げた話題を蒸し返す男子なんて、嫌われるだろう。


だがそれでも、部内であの人のことをよく知るのは、橘くらいかもしれない。ここで聞けば、明日の大きな進展になるということも、ありえる。


ところどころ錆びたドアノブを握った手が迷う。
口にするか、否か。


「……。

 …橘さん」
「はい」
「…。

 ……また、来るね。
 きら高で、待ってるから」
「…はい。
 ありがとうございます。

 おやすみなさい」
「うん。おやすみ…」


結局、口にしなかった。

そうした理由は、彼がこれまできらめき高校で過ごしてきた魔法のような時間が、またしても良い流れに傾くのではないかと、油断と期待に満ちた楽観視を彼に授けたからに違いなかった。あの八重さんと分かり敢えた、すみれちゃんとも友達になれた、こなみちゃんとも打ち解けた…そんな出来過ぎた前例の数々のせいで、どうにも彼には、奇跡が身近に思えすぎるようだ。


だが、彼は後々この時のことを「あの時無理にでも聞いておけば」と悔やむことになる。もしも彼のすぐ横に「大門のあいつ」が居たならば、こんな先送りは断じて行わなかったはずだというのに。


…明日。
クラスまで行って神条さんを捕まえよう。あと、帰ってからも電話する。このままなんにも聞けずにお別れなんて、そんなことにはさせない。神条さんを誘ったのは俺なんだから。たとえ辞めるんだとしても、終わり際まで面倒見てやる…絶対…。



















翌朝、吹奏楽部はまた少し、前進の兆しを見せた。
最近は魔法使いがソプラノの音出しをするせいで、テナーの音が朝のきらめき高校の朝景から消えてしまっていたのだが、今日はあの暖かい中音が渡り廊下から発信されたのだ。


それも、高見 直人があの色とりどりのテナーを吹いたわけではない。紛れもない学校の備品であるスーパーアクションVの音で、しかも、元祖きらめき高校 吹奏楽部のサウンドが、ブランクと戦いながらさえずったのである。


「うわぉぁ!はよざいます!」
「あら、おはよう。
 
 ふふ、どうしたの?
 まだ夢でも見てるような顔をして。
 寝ぼすけさん?」
「あ、あはは…。
 

 あれ、ついに練習開始ですか。
 定演の」
「ええ。現役の時ほど吹く時間は無いから、
 朝に基礎をして、昼か、放課後に少しだけ
 曲をするようにしようと思って。

  
 池上君や他のみんなも、
 今日から何人か来ると思うわ。
 みんなでこの学校を盛り上げて、
 嫌な噂も払拭できるように頑張りましょうね」
「はい!」


相変わらずの模範的な先輩に、最近ナリを潜めていた模範的な後輩が、名門仕込みの良い返事で答える。


彼女らの影響は小さくなく、日ごろ同じ楽器の音を聞かない人たちには、ようやく遅すぎる先輩が出来たこととなり、先輩方が「自分たちは腕がなまり過ぎて教えられる立場じゃない」と言ったとしても、十分刺激になった。


そして、そんな彼女らのリハビリぶりだけが、部に影響を及ぼしたわけではない。元部長は朝練の終わり際、サックスパートが揃った音楽準備室で、楽器を片付けながらこんなことを言い出したのだ。


「そういえばアンサンブルコンテストの曲だけど…」
「ティータイムですか?」
「ええ。

 あれは、定期演奏会では演奏する予定はないのかしら」


同じように楽器を片付けていた陽ノ下 光の手が止まる。話の行方を耳が自然に追い、引いた途中のスワブが中空で洗濯物でも待っている物干しざおみたいにベルから延びて停止する。


「毎年、アンコンの曲も定演で吹いてたんですか?」
「ええ。
 1部と2部の間、休憩の時にロビーで吹いていたわ。

 ただ、今年からは新きらめき高校 吹奏楽部だもの。
 同じことをする必要性は無いし、そこはみんなで
 話し合えば…」
「――直人君!」


ぱっと振り向いた先、光の目線にサックスパート全員と先輩、9月のサックスメンバーが自分を除いて勢ぞろいするところが映る。

楽器を片付ける途中だったり、あるいは片桐のようにお行儀悪く棚の上に座って足をぷらぷらさせていたり、または語堂のように大きな楽器ケースを立てたところだったり。三者三様、ばらばらの彼ら彼女らに向けて、光はただならぬ胸中を抑えて、言った。


「みんなも!

 私…もしできるなら、
 もう一回、みんなと「ティータイム」、吹きたい…!」


勝手にミスして勝手に後悔して、勝手にコンティニューさせてくれなんて、身勝手もいいところかもしれない。だから頭を下げて光はそう言ったが、顔を見合わせたサックスパートは、言葉無しに目線で相談し合ったかと思うと、すぐに口々に答えを出してくれた。


「いいじゃない。ワンモアプレイ!
 やりましょうよ」
「いいねぇ。
 おかわりしちゃいます?ティータイムだけに」
「な、なんで私に言うのよ。
 
 …あ、ああ。
 なるほど。ま、まあいいけど」


これにて喫茶店の看板娘の了解も出て、快速のスプリンターの笑顔も爆発。


「ごめん…ありがとう!」
「ヒカリ?
 お礼なんていらないわよ。

 エンジョイしましょ。
 それが出来ればなんだってパーフェクトよ」
「そそ。

 2時限目もあれくらいエンジョイしましょうや、
 みなさん」
「げっ、なんで思い出させるのよ、ばか!」
「そ、そうよ…考えないようにしてたのに…」
「え?みんな、2時間目、何があるの?」
「体育です…」
「なんだぁ」


先輩は、落ち込む体育嫌いな3人をくすくすと笑う。が、元陸上部さんはさすがに言うことが違う。


「体育だって楽しいよ!
 気合出していこっ!き・あ・い!」
「……。

 ……ぷっ。

 あははは!」


黙り込んで相手をしない風を装っていた片桐だったが、やっぱり我慢できずに笑ってしまった。笑いは伝染して普及して、またしても昨日のデジャブみたいに見回りにきた都子に「サックスー!はやくかたづけなさーい!」と怒られてしまった。今日はパート全員、仲良く揃って。


…よーし!頑張らなきゃ!


練習もそうだが、他のことも含めて、俄然やる気が出てきた光は、ぐっと拳を握って、思った。今度こそ、お守りに頼らない。思い出の中の君じゃない、ほんとの君と頑張ってきたこの1年を、演奏会の日にぶつけてやるんだ、と。



多分、つづく



誤字脱字報告等あれば、下記ボタンよりどうぞ! 返信しないかもしれませんがご了承ください。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
きらめき高校吹奏楽部 〜もしきら高に歴代ヒロインがみんな居たら〜  おかわりは、みんなで  For side/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる